【図鑑4】16年の専業主婦期間を経て社会と繋がる喜び 地域の課題解決のきっかけを作りたい
足立 紀子(あだち のりこ)さん/あいホール 男女共同参画推進担当 職員
もやもやが晴れた女性カレッジでの学び
結婚を機に退職してから16年間専業主婦をしていました。夫の仕事が夜遅いことが多かったので、私も働いたら家庭が回らなくなってしまうと思っていました。専業主婦でいることに何の疑問ももっていないつもりでしたが、時々働く女性を見てもやもやすることがありました。今となれば羨ましかったんだと思いますが、当時はそのモヤモヤが何なのかよく分かっていませんでした。自分が働きたいと思っていることにも気づいていませんでした。
2010年、夫の転勤に伴い、生まれ育った浜松に戻ってきました。子どもが成長する中でいろいろ悩みも出てきて、「しんどいな、逃げ場がないな」という時期がありました。その時に、姉から「これ一緒に行ってみよう」と誘われ、はままつ女性カレッジに参加しました。そこで「あなたが苦しいのは、あなただけの問題じゃないんだよ、個人の問題は社会の問題なんだよ」という話を聞いて、目からうろこが落ちました。
それまでは、性別役割分業とか、そういうものを全く考えたこともありませんでしたが、自分の悩みにはそういう社会的な背景あったんだと知ることができて、すごく楽になりました。また、家の内側だけに向いていた自分にとって、女性カレッジの受講が世の中と繋がるきっかけになりました。
働く喜びがもたらした家族の変化
女性カレッジ修了後も、講座やイベント、図書の閲覧であいホールへ足を運ぶようになりました。ある日、本を借りに来ていたら「あいホールで働いてみない?」と声をかけてもらいました。とても驚きましたが、願ってもないチャンスかもしれない、と思いました。それまでも働きたいと思いながら求人情報誌を見ていましたが、実際に応募することはなく、夫に「働く気なんてないでしょ」と笑われたりしていました。あいホールで声をかけてもらって「今度こそ何かが変わるかも」と思いました。夫に仕事をしたいと話すと、最初は「家のことできるの?」と言われ悔しい思いもしました。しかし実際に私が働き始めたら、絶対家事をしないと思っていた夫が、掃除機をかけたり、ゴミ出しもゴミを集めるところからやってくれたりしています。今では、私が仕事で夫が休みの日は、帰宅するとおいしい夕飯ができていて、本当にありがたいです。私がすごく楽しそうに働いていたから、何も言えなくなったのかもしれません。子どもたちにも働く姿を見せられることをうれしく思っています。
自分でも働いてよかったなと気づきがありました。それまでは、夫が稼いできたお金で何かを買う、食べる、ということに遠慮があり、気持ちよくお金を使うことができなかったんです。自分が働いてみて給料をもらうようになると、家事や育児だけでなく、お金の面でも自分が役に立てているという気持ちをもてるようになりました。初めて自分の給料で家族を焼き肉に連れていってあげたときには、すごくうれしかったです。
何歳になってもスタートは遅くない
あいホールでは、主に男女共同参画に関わる啓発講座の企画・運営をしています。まだ自分の引き出しが多くないので、上司や先輩からアドバイスをもらいながら仕事を進めています。自分で考えなくてはいけないこともあるので、常にアンテナを高くして情報をキャッチできるように心がけています。
仕事を始めた年に、講師の先生や周りに迷惑をかけてしまう大きな失敗をしてしまいました。上司が頭を下げ、全部尻ぬぐいをしてくれました。私も「申し訳ございませんでした!」と謝るしかなくて、自分の未熟さに落ち込みました。でも、上司や先輩が「私もやったことがあるよ」と慰めてくれ、また頑張ろうという気持ちになりました。一つ一つ仕事を覚えて、いつかは誰かの役に立てるようになりたいなという気持ちでやっています。
仕事を頼まれたときは、初めてのことでも挑戦したいと思っています。できないからとやらなかったら、ずっとできないままなので、何歳になっても、スタートは遅くないかなと思っています。
みんなが生きやすくなる社会へのきっかけに
2022年3月、元全日本バレーボール代表選手の益子直美さんをお呼びして「監督が怒ってはいけないバレーボール大会を企画した理由」をテーマに、あいホールフォーラムを開催しました。このテーマを選んだのは、ずっと自分の中にスポーツの指導に対する疑問があったからです。ニュースや知人から、子どもたちが受けている指導の実情を聞いたりして、なんとかならないかと思っていました。いろいろな思いが積み重なって、自分に何ができるかなという気持ちを抱えていたところ、益子さんが企画している「監督が怒ってはいけないバレーボール大会」をテレビで見て、時代が変わってきたんだと衝撃を受けました。これからの子どもたちにはスポーツで辛い思いをしてほしくない、楽しんでほしい、とずっと考えていました。また、スポーツ選手がジェンダー問題に関して発信しているのを見ることが増え、あいホールでも企画できたらという気持ちがありました。
あいホールフォーラムは、年に一度の一大イベントです。プレッシャーもありました。でも、機会を与えて頂いたからにはできるだけやってみようと思いました。益子さんの所属事務所に連絡をして、企画に対する自分の思いを伝え講演を依頼しました。承諾いただいた後は、全体の構成を企画し、ゲストの選定、オンライン配信のための打ち合わせなどを行いました。スポーツの現場で行われている、現状の指導を考えてもらうきっかけになってほしいという思いもあり、市内の全学校、公共スポーツ施設にもチラシの配架を依頼しました。学校の先生やスポーツ指導の関係者も申し込んできてくれ、終了後のアンケートで反響もありました。「スポーツ指導をしているけれど、悩んでいます」という人もいて、学校の先生も指導者も悩みながらやっている方がいるんだなと感じることができてよかったです。
あいホールフォーラムをはじめとする啓発講座はみんなが生きやすくなるためのきっかけだと思います。一人ひとりが身近な問題に気づくことで、誰もが生きやすい世の中に少しずつでも変わっていくんじゃないかな、変わっていけばいいなと思っています。
悩んだ時に一歩を踏み出す勇気を持って
悩んでいる女性たちには、「どん底でもうダメだ」と思ったときにも諦めないでほしいと思います。もうダメだと思っても、ずっとそれが続くわけじゃない。私自身も「こんなに苦しいことがあるんだ」と何度も思っていました。特に自分の子どものことだと、どうにもしてあげられない苦しさもありました。そんなとき、「助けて」って人に助けを求めてもいいと思います。失敗を恐れずに、面白いと思ったら飛び込んでみること、講座に参加することも一歩だと思います。今の私をみて、行動力がある人に見えると言われ驚いています。自分ではそんな風に思ったことは一度もなく、根っこの部分には、辛くて泣いていたときと変わっていない自分がいます。そんな時期があったことも忘れないでいたいと思っています。
私は、休日に夫と庭づくりをするのが趣味なんですが、植物に触れていると気分が変わります。庭で季節ごとに表情を変える樹木を眺めながら、たたみに寝転んでカエルの鳴き声を聴いていると、贅沢な時間だなと思います。まずは窓を開け、風を入れて日に当たるだけで気持ちが変わります。暗いところにばかりにいると気分がふさぎがちになってしまいます。自分も姉に連れ出されて変わることができたので、子どもたちにも「日なたを歩こう、明るい方に行こう」と言っています。
(インタビュー実施日:2022年6月2日)
足立紀子さん略歴
1999年 | 就職 |
2001年 | 結婚を機に退職、専業主婦になる |
2017年 | 第4期はままつ女性カレッジ受講 |
2018年 | はままつガーベラ姫プロジェクトメンバーとして浜松市の男女共同参画推進のための情報誌「ハーモニー」の編集に参加 |
2019年 | あいホール男女共同参画推進担当として勤務開始 |
インタビュー感想
スポーツ指導の地域の現状に悩んでいたので、あいホールフォーラムの企画を知ったときとても嬉しく思いました。足立さんはインタビューの中で、「いくつになってからでもスタートは遅くない」と力強く話してくれました長い専業主婦期間を経て、1人の女性として、社会や地域の課題と向き合い、一歩ずつ歩みを進めている姿はとてもまぶしく感じました。私たちをとりまく社会の課題は小さくはないけれど、私も自分の限界を決めず、年齢を気にせず、一歩一歩地道に進んでいきたいと思えました。