【図鑑3】「ここで終わらせてはいけない」をモットーに 新しいことに挑戦し続けたい

鈴木治代(すずき はるよ)さん/日本郵便株式会社

鈴木治代(すずき はるよ)さん

何が何でも取ると決めた育児休業

短⼤の家政科に進学し、さまざまな会社を受けた中で合格した郵便局に就職しました。採⽤当初は周りの友⼈と同じように、結婚したら仕事は辞めるものだと思っていました。⾃分が採⽤された郵便局には、定年間近で仕事ができる⼥性の先輩がいて、その⼈を⽬標にがんばってきました。年間20⽇の年休があるのですが、労働組合のおかげ で休みを捨てることもなく、⾃分の都合で休みを取ることができました。職場の福利厚⽣がよかったので、ずっと仕事を続けることができました。

もともと郵便局では、⼦育てと両⽴しながら働いている⼈が多くいました。私は結婚が決まった時、夫の親に「仕事はいつ辞めるの?」とか、妊娠したときに「うちでは⼦どもはみられない」と⾔われましたが、ちょうど育児休業の制度ができた時だったので、1年間は育児休業を取ろうと思っていました。周りに何を⾔われても私は育休を取ろう、制度があるのなら使おうと思っていました。もし復帰して⾟いようなら仕事を辞 めるつもりでいました。
第1⼦妊娠中つわりがひどくて妊娠3〜5か⽉までは⼊院して いました。退院して仕事に復帰して妊娠7か⽉ぐらいの時、局⻑が体調を気遣ってくれて窓⼝業務の貯⾦課から「対お客様ではない」総務課に異動となりました。

無我夢中で向き合った仕事と子育て

⼦育てと仕事との両⽴は、そのときは⼤変だったと思います。当時は無我夢中で、職場と家の往復に精⼀杯でした。⼦どもが熱を出したとか、仕事の締めの時に、こんな時にぐずぐずいって困るとか、そういうのはありました。でも、今考えれば⼩さなことかなと思っています。今では⼦どもたちも26歳、24歳になりました。20年以上も前の話ですね。今みたいにインターネット環境がなかったので、⼈と⽐較することがありませんでした。⾃分のペースで仕事をしてきたので、あまり⼤変とか考えていませんでした。それでもその時々で悩みは出てきて、⼦どもが⼩学⽣になったら勉強について悩むこともありました。

夫や両親には助けてもらいました。夫が⾃宅近くの郵便局に勤めていたので、飲み会があるときにはいったん帰ってきて⼦どもをお⾵呂に⼊れてから出かけてもらっていました。そうじゃないと全部私⼀⼈でやることになってしまうので、それはおかしいですよね。両親が近くに住んでいたので、⼦どもたちは学童保育に⾏かずにみてもらっていました。
残業のときや年末年始など休みが取れない時には、⼦どもたちの⼣飯を⾷べさせてもらったり、お⾵呂まで⼊れてもらったりして寝るばかりの態勢で家に帰ってきました。毎⽇では両親も疲れてしまうので、みてもらうのは平⽇限定で⼟⽇は⼦供を預けないと決めていましたが本当に助かりました。

総務課の在籍期間は約7年間で、ちょうど⼦どもに⼿がかかる時期にいさせてもらいました。総務課の⼥性社員は私1⼈だったので、周りの男性社員が定時に終われるように気遣ってくれたり、⼦どもの⽤事があれば休暇を優先させてくれたりしました。それでも忙しい時期、特に年末年始は本当に忙しかったです。⼟⽇に出勤しなければならない⽇も続くのですが、⼦どもたちはそういうのを分かってくれました。⻑⼥が「お⺟さんみたいに働きたい」と⾔ってくれたときはうれしかったです。総務課に在籍後、希望を出して貯⾦保険課に異動させてもらいました。

仕事を続けていて⼀番よかったのは、家計が助かったということですね。あとは、⽣活にメリハリがつきました。仕事のときは仕事に集中できるし、家に帰ってくればそれまで会えなかった分、子どもたちと触れ合うことができました。よく怒っているお⺟さんっているけれど、  私はそういうのはなかったですね。⾃分の場合は、基本的には⼦どもと離れていたほうがいいのかなと思うときもありました。⼦どもには寂しい思いをさせたかもしれないですけどね。

仕事をしていると、いろいろな年代の⼈と⼀緒になるので、それもよかったです。いろいろな年代の⼈たちと働くことによって、窓⼝でのお客様との会話の幅が広がります。  若い⼈と働いていると、⾃分がこのくらいの歳の頃はこうだったなあとか、今の若い⼈たちとは全然考え⽅が違うなと思うこともあります。でもそれを否定するわけでなく、こういう考え⽅もあるんだなと思うようになりました。
年をとってくると、休みの⽇は出かけるのではなく体を休めたいと思うのですが、若い⼈たちから「休みの⽇に〇〇に⾏ってきました」と⾔ってお⼟産をもらったりすると、私もそこへ⾏ってみたくなったりします。体はいつまでも若くないのですが、若い⼈たちといると気持ちは若くいられます。

 「恩返し」の思いで始めた労働組合の活動

2011年から現在まで、JP労組静岡連協⼥性フォーラム議⻑を務めています。きっかけは、専従で労働組合をやっている同期の⼈から誘われたことです。どうしようかなと迷いましたが、家族に相談したところ、⾃分が育休を取れたこととか毎年給与が上がっているのも組合の交渉のおかげだから、そろそろ恩返しをしたらいいのではないかということになり、⼦どもも⼤きくなっていたので、できる限りはやろうと引き受けることにしました。

静岡県内には、いろいろな郵便局に組合員がいて、9⽀部の中からそれぞれ代表者が静岡県の⼥性フォーラムの会議に出席します。今回は何をやっていくとか、皆さん困っていることはないかということなどを話し合っています。やっていてよかったと思うのは、県内のいろいろな郵便局の⼈たちと交流ができ、⾃分の仕事(貯⾦保険の窓⼝)以外にも、郵便・配達・窓⼝局(⼩さな郵便局)の仕事内容を知ることができたことです。  仕事で困ったときは相談したり、分からないことは教えてもらったりと⼈との繋がりができました。他の郵便局の内容を知ることができた反⾯、郵便・配達などは男性が多い 職場なので、⼥性視点が少ないことが多く、労働組合を通じて会社に改善を求めました。
「妊娠した時にいつ会社に伝えたらいいか分からない」とか「窓⼝局(⼩さな郵便局)だと休憩室とロッカーが1部屋しかないから男性社員と⼥性社員がいると気をつかう」など、各職場でいろいろな問題があることが分かり、⾃分で回答できないものは労働組合の上層部に伝え改善を図っています。

静岡連協⼥性フォーラムでは、年1回⼥性組合員向けにセミナーを開催するのですが、2017年に静岡⼥性会館と共同で⾏ったメンターカフェが好評だったことが印象に残っています。メンターとは、⾃⾝の経験談やアドバイスを話してくれる「⾝近な先輩」のことです。この⽇は静岡⼥性会館に登録されていた⼆⼈の⽅にメンターになっていただき、今までの⼈⽣グラフ(キャリアチャート)を作ってもらい、⾃分が⼀番絶好調だった時、ドン底だった時など体験談を話していただきました。良い時もあれば悪い時もあり、その時々で周囲の協⼒や⼯夫が必要だということを教えてもらいました。参加者にとっても、メンターに共感したり、次の⽇からの仕事に前向きになれたりしたのではないかと思います。

会社を超えて出会った新たな世界

連合静岡が「男⼥平等参画」の取り組みとして2009年に発⾜し、私は第2期(2011〜2013年)⼥性委員会のメンバーでした。当初⼥性委員会のメンバーは⼥性だけでしたが、今では「男⼥共同参画推進委員会」と名前を変えてメンバーには男性も⼥性もいます。

連合静岡には、いろいろな会社や組織の労働組合の⼈たちが集まっているので、今まで郵便局しか知らなかった私にとっては、とても新鮮で楽しく新しい世界でした。  2か⽉に1回⼥性委員会が開かれるのですが、それぞれの組織の紹介や問題点などを発表したり、ファシリテーションやプレゼンテーションなどを学んだりしました。問題点として、男⼥の賃⾦格差について話題になったことがあります。郵便局は、⺠営化される前は公務員だったので男⼥の給与が⼀緒だったんですが、⺠間企業では男⼥で給与が違うこともあるということを連合に⾏って初めて知りました。そんなことあるのっていう気持ちになりました。当時は、結婚したら⼥性は仕事を辞めるのが当り前だったり、3歳までは⺟親が家庭で⼦育てをした⽅がよいといった「3歳児神話」があったり、そういう時代でしたね。
問題点が浮き彫りになると、⼥性委員会では、どうしたらよいかということを話し合い、「どういうことをやっていますか︖」と企業同⼠でそれぞれ良い部分を出し合いました。また、どうすれば⼥性が働き続けていけるかということも話し合っていました。例えば、夜勤の⼥性が妊娠したらどうするか、当時はそういう法律もなかったんです。

他にも3月8日の国際⼥性デーに静岡市内の街頭でバラの花を配布したり、⼥性委員会の取り組みの発表をするために1泊2日で合宿してパワーポイントの資料を作ったりしました。⼥性委員会での活動は本当に貴重な経験で、その時のメンバーとは今でも年に1回集まって⾷事をするなど情報交換をして繋がっています。お知らせやお願いごとがあると、連絡を取り合ってみんなで助け合っています。

地域視点から見た男女共同参画

労働組合の委員を務めるなかで、やはり⼥性の労働環境の改善が必要だと感じました。JP労組や連合静岡を通して、「男⼥共同参画って何?」という思いがある中で、偶然はままつ⼥性カレッジの募集を⾒かけて応募しました。⼥性カレッジの1期⽣はすごい⼈ぞろいで圧倒されてしまいましたが、そういう⼈たちが引っ張ってくれたからこそ私も頑張れました。  私が参加したグループでは、「ワーク・ライフ・バランス」のテーマを扱いました。それまでは労働組合で会社の⽴場から⾒ていた男⼥共同参画について、今度は浜松市という地域 視点から⾒ることができました。⼥性カレッジを通して、いろいろな⼈と繋がれたことが⼤きかったです。企業に勤めている⼈だけでなく、専業主婦、企業を⽀援している⼈、東京へ新幹線通勤する管理職の⼈など、本当にいろいろな⼈がいるから視野が広がって学ぶこともたくさんあり、今もその方々と繋がっています。

学びを活かすために仲間と始めたプロジェクト

はままつ女性カレッジが終わって、せっかくみんなが市政に関心を持ったのに、ここで終わってしまうはもったいないということで、卒業生が集まった時、浜松市に「マスターコース」の新設を提案しましたが、浜松市ではこのカレッジでいっぱいということでこれ以上のことはできないという回答でした。そこでカレッジの卒業生の有志で「この学びを活かした何かをやろう」と、はままつガーベ  ラ姫プロジェクトを⽴ち上げました。
はままつガーベラ姫プロジェクトは、浜松市主催のはままつ⼥性カレッジ第1期⽣修了⽣有志が⽴ち上げたプロジェクトチームです。なぜガーベラかというと、ガーベラの品種は500種以上あり、⾊彩バリエーションも多く、⼥性⼀⼈⼀⼈の「個性、多様性」を思わせ、浜松市の様々なフィールドで活躍する⼥性の姿をイメージさせるからです。

はままつガーベラ姫プロジェクトとして、まず「浜松⼥⼦⼒パワーアップ講座」を開催しました。⼥性の活躍について学ぶ座学、現地視察、浜松市の⼥性議員との交流会、男⼥共同参画に関わる市⺠協働活動とその課題について、といった内容で様々なことを学びました。2016年には団体として静岡県知事褒賞をいただきました。

2017年には、埼⽟県にある国⽴⼥性教育会館で開催された、男⼥共同参画推進フォーラムにガーベラ姫プロジェクトとして出展しました。ブースをかまえて、30⼈ほどが⼊れる⼩さな部屋が、すぐにいっぱいになってしまいました。前半は、ガーベラ姫プロジェクトと浜松市について紹介し、後半はワールドカフェを⾏いました。グループに分かれて「地域で⼥性が活躍するためには何が必要か?」というテーマについて、地域での⼥性育成事業の現状と課題について話し合ってもらいました。参加者の皆さんが積極的に意⾒を出してくれるので、盛り上がり過ぎて時間が⾜りないくらいでした。北海道から沖縄まで、全国の幅広い世代の⽅と出会い、パワーをもらいました。

フォーラムに参加して、全国には男⼥共同参画に関⼼を持っている⼈たちがこんなにもたくさんいることに驚きました。私は男⼥共同参画を知ってまだ数年ですが、ずっと前から男⼥平等、男⼥共同参画の活動をされている⽅がいることに歴史を感じると同時に、私たちも後輩たちに繋げていかなければいけないと思いました。

編集委員としての出会いから多くを学ぶ 

はままつガーベラ姫プロジェクトでは、浜松市の男⼥共同参画推進のための情報誌 「ハーモニー」の編集員も経験しました。⾃分⾃⾝の⼦育てが落ち着いたので、空いた時間をガーベラ姫プロジェクトの活動に充てようと思ったからです。ハーモニーの取材では、いろいろな⼈との出会いがあり、そこから学ぶことも多く、勉強になりました。

特に印象的だったのは、⼥性医師へのインタビューです。インタビューした先⽣は、⾃⾝も⼦育てをしながら医師という仕事をしてきた経験があるので、出産・育児などで常勤勤務が困難な⼥性医師を、キャリアを諦めずに復帰できるように⽀援しています。どの職場でも同じですが、仕事を続けながら⼦育てをするのは⼤変なことです。インタビューを通して、私も先⽣のように、育児と仕事を両⽴していく⼥性を⽀援していきたいと思いました。

これからの子育て世代を支えていきたい

「ここで終わらせてはいけない」というのが私のモットーなので、ここで終わりではなく、これからも何かやりたいです。⾃分の経験を振り返ってみると、やはり⼦育てをしている時の⽅が、⼤変だけれど何かとアイデアが浮かぶと思うんです。私⾃⾝が⼥性カレッジやガーベラ姫プロジェクトに参加していろいろな刺激を受けたように、今の⼦育て世代の⼈たちにも、思い切っていろいろなことにチャレンジしてもらいたいです。私はそんな⼦育て中の若い⼈たちと交流して、⽀えていけたらいいなと思います。

(インタビュー実施日:2021年7月13日)

鈴木治代さん略歴

1988年郵便局に就職
1995年第1子出産
1997年第2子出産
2011年JP(日本郵政グループ)労組静岡連協女性フォーラム議長就任
2011年連合静岡女性委員会委員就任
2014年はままつ女性カレッジ受講
2015年はままつガーベラ姫プロジェクトに参加
2016年浜松市の男女共同参画推進のための情報誌「ハーモニー」編集に関わる
2017年男女共同参画推進フォーラムに参加

感想

どんなことも前向きに捉え、その時々で自分が学ぶべきことにしっかりと向き合いながらも、軽やかなフットワークで行動していく力。子育てと仕事の両立という大変さの中でも、常に周りの人々への感謝を忘れず、その時だからこそ得られる点に目を向けて学ぶ姿勢を、わたし自身も学びたいと思いました。(山崎加奈子)
 
「男女共同参画についてもっと知りたい」という思いから、女性カレッジへの参加やガーベラ姫プロジェクトでの活動へと、お仕事をしながら新たな世界とつながる行動的な姿がとても印象的です。お話を伺う中で「ここで終わらせてはいけない」という強い想い、その時々を楽しむ気持ち、出会いを大切にされていることが感じられました。子育て中の人の支えになりたいというお言葉も嬉しく、今この時期を大事にしなくてはと思いました。(秋山陽子)