【図鑑7】4人の子育てに精いっぱいだった経験を生かしてママたちが笑顔になれるように応援したい
有賀 愛(ありが あい)さん/ママ支援プロジェクトall for mam主宰
「自分の思いを声に出していい、発信してもいい」
私の家は四世代同居でした。母は働いていたため家にいる時間が少なかったので、祖母に面倒をみてもらいましたが、どこかで母親を求めている気持ちはあったかもしれません。この気持ちが結婚と同時にわいてきて、「子どもが小さいうちは専業主婦でいたい」と強く思いました。実際4人の子どもたちの面倒をみることができたので、専業主婦でよかったと思っています。
専業主婦時代の10年間は、毎日生活することで精いっぱいでした。子どもたちが成長して、一番下の子が幼稚園に入園する半年くらい前になると、少し気持ちに余裕ができました。そのころに今のall for mamの活動のアイディアとなるものが降ってきました。世間にもアンテナを張るようになり、託児があるからと、はままつ女性カレッジを受講しました。そこで、女性・男性はこうあるべきという社会的性差、政治に関することなどについて学び、10年間の育児期間中でモヤモヤしたことがハッキリし、ニュースや新聞を見る目が変わりました。
女性カレッジでは、同じ想いをもっている人と同じグループになって共感し合えたことが勇気になりました。「自分の思うことを声に出していい、 発信していい」ということを知り、今の活動につながっています。
「自分にもできるかな」all for mamの始まり
いつも子どもと一緒にいた10年間の子連れママ時代はへとへとだったので、一番下の子が入園してから2、3カ月間は家の中で引きこもり、今までやりたくても出来なかった、ソファでゴロゴロしたり映画鑑賞をしたりして過ごしていました。その後は人に会ったり、講座を受講したりするようになりました。
今思うとall for mamの活動の構想を練っていたのかもしれません。自分が子連れママのときにはできなかったけれど、こんなことあればよかったな、ということを書きためていました。
その頃、友人に勧めたい講座に出会いました。「この前講座を聞いたら、悩んでいた子どものことが楽になったよ」と話したら、「すごく気になる。聞いてみたい」というので「待てよ。講座を開くことなら私にもできるんじゃないかな」と思い、講師と友人の予定を聞いて会場を予約し、SNSで講座の情報を発信して人を集めました。それがall for mamの始まりでした。
参加者の“幸せホルモン”を感じて私も幸せに
all for mamでは多くの講座を開催してきましたが、印象に残っている講座の一つが「親子で学ぶ命の教室」です。開催するきっかけは、長男の小学校の参観会でこの講座を受けたことです。助産師の話を聞いて、とても温かい心地良い気持ちになりました。別の小学校の友人に話したら、「うちの子が通う学校ではその講座はやっていないよ」と言われて、学区が違うだけで受けられない親子がいるのは残念だなと感じました。それなら自分が開催したらいいじゃないかと思って、助産師の知人に相談したり、会場やスポンサーを探したりしました。講座中、写真撮影をしていたとき「みんな良い表情で幸せホルモンが出ている」と感じて、私自身もいつも幸せな気持ちになります。
もう1つ印象に残っているのは、ドキュメンタリー映画『ママをやめてもいいですか!?』*の上映会を開催したことです。自分が子育てや家族の悩みなどがあって苦しんでいたころ、SNSで「私ママやめたーい! どこか遠くに行きたい!」と発信しました。それに友人たちが共感してくれて、紹介された映画が『ママをやめてもいいですか!?』でした。上映会は、資金面や会場の選定など、かなり気を遣いましたが、大きなことをやり遂げた達成感はたまらないものがありました。
*『ママをやめてもいいですか!?』…子育てに悩みながらも子どもを愛し、前向きに奮闘するママとその家族を描いたドキュメンタリー映画
どんなに辛くても「動く! それでも動くんだ!」
2022年、「ままのき」という訪問型のママ支援を始めました。all for mamでは子連れママにイベントに参加して楽しんでもらうことを考えていますが、そもそも講座やイベントに行くことも大変、今日1日生活するだけでも厳しい人がいるという話を聞きました。イベントに来られない方に自分ができることは何だろうと考えたとき、こちらからママたちのところに行けばいいのではないかと思いつきました。
「どなたか一緒にやってくれる方はいませんか」とSNSで呼びかけたところ、何名か手を挙げてくれて、「それならやってみよう!」と思って立ち上げることを決めました。立ち上げに関しては、商工会議所や銀行で相談したり、ウェブサイトを作ったり、さまざまな準備をしました。準備している間「私のやろうとしていることは人の役に立つのか、どのくらい人が利用してくれるのか」不安に駆られて眠れなくなる夜もありました。
やっと準備が整い、SNSを通して利用者の募集を始めましたが、まったく反応がありませんでした。浜松市で新型コロナがグンと増えたときと重なっていたので、人に会うことにためらいがあったかもしれません。その後も利用者は増えず、運転資金が足りなくなったため、いったん解散することになりました。2023年3月、再び「ままのき」をやっていこうと思っていた矢先、苦労して立ち上げたウェブサイトが不正アクセスで消えてしまいました。今思い出すだけでも苦しくなります。その後はなかなか復旧させようという気持ちになれず、今も続けようか一旦中止しようか迷っています。でも、この経験は今後の人生にきっと役立つと思っています。
「もう嫌だ!」と思ったときは、おいしいスイーツを食べたりアロマをたいてリラックスしたりするようにしています。あと、どんなにどんなに辛くても「動く!それでも動くんだ!」と考えるようにしています。少しでも動けば流れが変わったり、新しい出会いがあったりします。そうすると、新しいステージへ抜け出したなと感じます。
障がいがある子もない子も楽しめる講座を開催
2019年10月に「Border Free ~障がいがある子もない子も一緒に過ごそう~」というタイトルで開始しました。障がいがある子もない子も交流や工作を通して一緒に過ごし、異年齢交流や共に過ごす場、学校や家庭とは別の第三の居場所、孤立しがちな親同士の交流の場、子育ての相談ができる場として、協働センターなどで開催してきました。2023年6月には、浜松市UD・男女共同参画提案事業へ応募し採択されました。これからも発達障がいや不登校児、その親子に対する理解を深めるため、いろいろな角度から当事者、支援者、第三者を交えて知識や対策を共有し、活動していきたいと思います。
家庭と活動のバランスを大切にしたい
私はワーク・ライフ・バランスを大切にしたいと思っています。all for mamの活動をしていると、人のために動いてしまい、自分の家庭が手薄になってしまうことがあります。でも、家族が健康でなければ、やりたいこともできません。また、活動のために、人生や子育てを犠牲にしたくはありません。
子どもに手がかかっていた頃は、家庭と仕事の割合は8対2くらいでしたが、今は6対4くらいになってきました。こんな風に割合を増やしたり、減らしたりできる考え方が私には合っています。家庭のことで特に大事にしているのは料理で、得意料理はピーマンの肉詰めです。子どもたちの記憶に、私の手料理の思い出が残るといいなと思っています。
(インタビュー実施日:2023年6月23日)
有賀 愛さん略歴
2008年 | 結婚を機に専業主婦 |
2009年 | 長男出産 |
2011年 | 次男出産 |
2013年 | 長女出産 |
2015年 | 次女出産 |
2019年 | ママ支援プロジェクト all for mam立ち上げ |
2019年 | 第6期はままつ女性カレッジ受講 |
インタビュー感想
私自身も参考になるお話がたくさん聞けました。特に、「それでも動くこと」という言葉が響きました。有賀さんは行動力があり、しなやかさの中にある芯の強さが魅力的な方です。
お話を聞くまでは、SNS上の表面だけしか知らなかったので、順風満帆に進んでいると思っていました。しかし、うまくいかなかったり、悔しかったり、悲しかったり、並々ならぬ苦労をしていたりと、ネガティブな内面も知ることができて、「私と一緒だ」と親近感がわきました。